私、僕、俺、拙者…日本語の一人称は何故たくさんある?

私は現在、海外で日本語教師をしている20代後半の女性です。
当初は日本語教師になるつもりはなく、大学の頃はフランス語及び文学を専攻していました。
日本の文化も好きでしたが、それよりもむしろ海外の文化に興味がありました。
そんな私が日本語教師になったきっかけは、学生時代の留学にあります。

 

フランスの学校でフランス語やその国のカルチャーについて学んだのですが、海外に出て自分が日本人であることを強く意識するようになりました。
日本にいたときは気にも留めなかったことが、妙に引っかかるようになったのです。
例えば「よろしくお願いします」という言葉の意味は、なかなか複雑だと気がつきました。
フランス語でメールを書いた時、文末でこの言葉に相当する語を入れたかったのですが、「よろしくお願いします」に当たる英語やフランス語の言葉は存在しないことに衝撃を受けました。
英語のIに当たる言葉も、日本語では何故か「私」「僕」「俺」「拙者」などバリエーションが豊かなのも面白いと思いました。
言葉には日本人ならではの考え方が反映されているのだなと実感し、日本語に興味を持つようになったのです。

 

また、留学先の国ではヴィリジアンと言うBARによく出入りしていたのですが、そこにはハイカルチャーからサブカルチャーまで、日本文化に親しんでいる人がたくさんいました。
私は元々日本の伝統文化や和食は好きだったのですが、彼らを通じて日本の新たな魅力に気が付きました。
日本独特の美学である「侘び寂び」や、食材本来の味を活かす和食、謙虚さや他者を尊重する心、桜を愛でる花見など、世界に誇れる素晴らしい文化を持っているのだと実感しました。
さらに、外国人の友達に日本語を教えた経験も日本語教師を目指したきっかけの一つになりました。
「日本語のネイティブスピーカーなのだから教えられて当然」と考えていたのですが、これが意外と難しく、一筋縄ではいかない日本語の奥深さに気が付きました。
そして、日本語だけでなく現地でフランス語を学んでいくうちに、言語そのものへの興味も大きくなっていきました。
フランス語独特の表現を何となくでも使いこなせるようになってくると、「私もフランス人みたいに考えることができているのかも」と嬉しくなったものです。
日本語ができるようになるということも、日本人のように考えることができているということなのかな、と思いました。

 

そのようなわけで、ネットで日本語教師になる条件を検索し、まずは420時間養成講座を受講することに決めました。
留学中に海外からも受講できる日本語教師養成講座をネットで探し、すぐに申し込むことにしました。
学習内容は日本語の文法から言語学、教育学、心理学と多岐に渡っていてとても興味深いもので、一年間くらいで無事に修了できました。
日本や日本語を客観的に見ることもでき、色々な発見もありました。
例えば…
「日本語はかなり文脈に依存する言語で、同じ言葉でも場面や状況によって意味が変わる」
「受身形を多用する日本語は英語に比べて主観的で、自分の視点で物事を見る」
「日本語は自分と相手の立場をはっきりさせる」
といった、今まで気がつかなかった日本語独特の特徴も知ることができました。
私自身も、知らず知らずのうちに日本語というフィルターを通じて物事を見ていたのだなと悟りました。

 

日本に戻って大学を卒業してからは、ワーキングホリデービザを取得して再びフランスに戻りました。
働くことができるビザなので、ネットですぐに日本語教師の求人を探しました。
とはいえ、一年間だけのワーホリビザでは日本語学校での仕事も簡単に見つからず、家庭教師派遣会社に登録して個人に教えることに。
最初に教えたのは、ルーマニア系フランス人の中学生の女の子。
日本のアニメやマンガが大好きな子で、部屋にたくさんアニメのポスターが貼ってありました。
飲み込みも早く、教えるのもとても楽しかったです。
他には、彼女の友達を家庭教師派遣会社を通じて紹介してもらい、教えることになりました。
彼女は父親が南米系で、フランス語の他にスペイン語や英語も話せました。
とても頭が良く日本のことも大好きで、彼女へのレッスンも大変楽しいものでした。

 

フランスでは両親のどちらかが外国にルーツを持つ人も多く、バイリンガルやトライリンガルくらいはあまり珍しくありません。
これも私にはびっくりでした。
日本でも最近はハーフが増えていますが、フランスの比ではありません。
ちなみに、日本語の授業は週に2コマだけだったので、パン屋さんなど他のお仕事もしていました。
そのようなわけで、ワーキングホリデーの一年はあっという間に過ぎていきました。

 

その後、交際していたフランス人男性と結婚することになり、本格的にフランスへ移住することに。
家庭教師の仕事も継続しつつ、もっと日本語教育関連の仕事がしたかったので、新たに語学学校の講師も務めることになりました。
日本語が専門の学校というわけではなく、中国語、スペイン語、英語、アラビア語など様々な言語を教えている機関です。
少人数制で、希望があれば家庭や職場にまで派遣されることもあります。

 

現在は、週に10コマ程度の授業を担当しています。
生徒さんの年代は中学生から70代までと本当に幅広いです。
人によって理解のスピードが違うのでグループの授業の時は少し気を遣いますが、できる人が理解のゆっくりな人を教えてあげてくれるので助かります。
ひらがな、カタカナの習得でつまずいてしまうと後があまり続かないのですが、それらをクリアできれば勉強も楽しくなるようです。
フランスでは英語と同様にアルファベットの26文字だけなので、ひらがなカタカナ、それに漢字も覚えなくてはならないのがかなり大変みたい。
日本人のほとんどが三千文字以上の漢字は知っていると言うとよく驚かれます。
逆に、文字学習が大好きですぐにたくさん覚えてしまう人も。
今は文字の勉強が苦手な人にどうしたら覚えてもらえるのか試行錯誤しています。
大変と言えば大変ですが、クリエイティブな仕事なので私自身は楽しんでやっています。

 

職場には日本人の同僚も何人かいるので、時間がある時は一緒にランチやお茶をして日本語で心置きなく話をしたり、励ましあったりしています。
難関大学出身だったり、有名企業で働いていた経験のある人もいるので、たくさん良い刺激をもらえます。
フランスでは日本にある日本語学校と異なり、仕事や進学のためというよりは趣味や旅行のために学ぶ人が多い印象。
授業の準備をしたり、プリントを作ったり、添削したりと授業時間外にもやることが多くて大変ですが、日本語を学ぶこと自体に喜びを感じている人ばかりなのでモチベーションも高く、とても教え甲斐があります。

 

この学校で働き始めて数年経ちますが、最近生徒さんから
「教えてもらった日本語が旅行の時に役立った」
「日本語能力試験に合格した」
といった嬉しい知らせも届くようになりました。
生徒さんの満足した表情を見られたり、感謝の言葉をもらえたりすると、日本語教師という仕事のやりがいを感じます。
もっと日本語教師としてパワーアップするために、日本語教育能力検定試験もそのうち受けてみたいと思っています。
既に実務経験はありますしどこか学校へ通う必要はないでしょうけど、家で簡単にでも勉強はしておくべきかと考え「日本語教育能力検定試験 通信講座」などで検索して情報収集中。
また同業者の方のブログやメルマガなどを読んだり、日本語教育関連の本を読んだりして、日々ブラッシュアップに励んでいます。
唯一不満を上げるとお給料がそれほど高くないことですが、素敵な出会いもたくさんあり、人の役に立っている充実感を得られるので今のところ続けていこうと考えています。

 

これから日本語教師を目指すなら、独身もしくは家計を支える立場ではない人には反対しません。
この逆の場合は、先ほど書いた通りお給料の観点からオススメできない仕事です。
やりがいはあっても生活できないようでは仕方ないので、じっくり考えて決めるようにしてください。